2022年5月19日 性売買経験当事者ネットワーク灯火
私たち性売買経験当事者ネットワーク灯火(とうか)は、性売買が女性に対する暴力で性搾取であることを前提にし、性売買の実態を伝え、現状を変えるための当事者運動を行っています。私たちは、性売買の経験当事者として、「性交」を金銭取引の対象とするAV新法に反対します。
この法案では、「強制にならないよう“しっかり説明”して“契約”すること」と書かれていますが、裏返せばそれは「強制でなければ問題ない」ということになります。AV業者は、文字通りの「強制」にならないやり方を、よく理解し、実行しています。どうすれば女性が諦めるのか。どうすれば女性が一見「自発的」に性売買やAV撮影に踏み込むように導けるのかも熟知しています。業者と被害者は対等な存在ではなく、業者は自分たちに力があることもわかっています。そして、性被害を受けたと告発する女性に対して、社会が示す冷酷な反応も知っています。
AV出演がもたらす影響として、この法案でも「出演者の心身及び私生活に将来にわたって取り返しの付かない重大な被害が生ずるおそれがあり、また、現に生じている」と書かれています。ここまで被害の実態を国が認めているのに、それでもなお、そんな危険な行為を「契約のもとで合法」とすることに反対です。
私たちは、性売買の現場で身体的にも精神的にも痛みつけられ、殺されるかもしれない恐怖を味わいながら生き延びてきました。この法律で「性交」を合法化することは、これまで以上にAV出演女性を含む、性売買女性たちを危険な目に遭わせることになると考えます。
「自由意志に基づいている」と業者が主張するのは、女性たちが「自主的」に「自分の意志」で、AVに出たことにするのは簡単だからです。アイドルや役者や配信者になってみたいという女性の夢を利用して、AV撮影へと誘導する。「それくらいできないと売れない」「それくらいできて当たり前」と言われ、「仕方がない」と思って、契約に「同意」します。
性売買に行き着く女性たちの背景には、生活に困ったり、生きづらさを感じたりしたときに、頼れる場所が社会にないことがあります。自分の抱える困難をひとに相談できない、そもそも、その状況を困難や問題だと認識できずに苦しんでいる女性ほど「わたしはダメな人間なんだ」という思いが強く、その思いが誰かに頼ることをさらに難しくしています。
私たち被害者の多くは、業者に拉致されたわけでも、殴られたわけでもありません。ただお金がありませんでした。そのことを、誰かに相談していいとは思いませんでした。「自分でなんとかしなさい」と言われ続けて育ったので、仕方のないことだと思っていました。
そうして女性たちは「そうするしかない」と思い込まされ、「自分が選択したのだろう」と責任を押し付けられています。
AV新法は、一部の被害者の取消権を保障しつつも、声を上げられずにいる多くの被害者が声を上げにくくするものです。
法案には、契約や性交を「拒絶できる」とありますが、「そうするしかない」と思わされ、マインドコントロールされているなか、拒絶できる被害者がどれだけいるでしょうか。この法案は業者に都合よく、「危ないからよく考えて決めてね。先に言ったからね?説明したからね?」と使われることが目に見えています。
「性交」をビジネスとして認める国は、誰が生きやすい社会となるでしょうか。政治や法律は、誰のためにあるのでしょうか。「生殖機能の保護」を明記しなければならないほど危険な性的接触、性交を金銭取引可能なもの扱いすること自体が暴力です。
この法案ができたところで、業者にとっては痛くも痒くもないでしょう。もちろん一部の「取消権」を行使できる被害者は救われるかもしれません。しかし、それも「性交」をも含む、被害が起きた後になります。
この法案が通れば、日本で初めて金銭取引による性交を合法化する法律となり、AV出演被害だけでなく、あらゆる性売買の合法化への道を開き、女性たちをこれまで以上に性売買へ導き、自己責任を押し付ける社会づくりにつながると考え、反対します。